オムライス屋さんの青年

少し前、大阪でちょっと?有名なオムライス屋さんに行きました。
最近人気の、とろとろ卵を包んだオムレツをパッカーンできるオムライス屋さんで、
あまりきれいとは言えない駅ビルの店舗でしたが、店内は比較的若者でにぎわっていました。

お店について早々、駅ビルに似合わない大きいタッチパネル形式のオーダー方法に戸惑いました。
お店はほぼ満席でしたが、運よく二席空いたので、すぐに中に通してもらえました。
全席カウンターで、私たちが通されたのはちょうど厨房の中が見える特等席でした。

中では二十五歳前後かと思われる青年と、
四十前後かと思われる男性が二人で店を切り盛りしていました。
四十前後の男性はオムレツ担当で、壁に貼り付けた伝票で注文内容を確認しながら、
休むことなくオムレツを焼き続けています。
一方青年は、ずっと眉をひそめているような表情で、
洗い物やケチャップライスの調理、盛り付けを担当しています。
青年は特等席からぎりぎり聴こえるような声量で、
「ずっと混んでるよ、もう疲れた」だのぶつくさ文句を言っていましたが、
仕事を捌く手つきに無駄はなく、しっかりと働いているように見えました。
私はホール担当ですが飲食バイトの経験があるので、
青年がぶつぶつ唱える文句に共感を覚えました。
もうお昼時も過ぎて14時頃だったと思うのですが、
今日の青年の疲労を心の中でねぎらいながら、
自分たちのごはんを調理してくれている二人に感謝しました。


店内は満席のとき、来店したお客がタッチパネルで注文しようとしました。
青年は即座に「店内満席なんで、注文しないでもらえますか」と声を張りました。
ぶっきらぼうな声の調子にお客さんは少しひるんだ様子で、あ、はい、と返事をしました。
どうやらタッチパネルで注文するとその伝票がそのまま厨房に出てくるシステムのようです。
当然、席が確保できていない状態で注文だけ通されても困るもんな、と思いました。

今度は店内でお客がすみません、と店員を呼びました。
青年が出てくるとお客は少しいらだった声で、料理はまだですか、と尋ねました。
青年は「今作ってるんで待ってもらえますか」とこれまたぶっきらぼうに言い放ち、
厨房に戻ってぶつくさ言っていました。
こちらのお客さんも、あ、はい、と少し不服そうに返事をしました。
特等席からは良く見えるのですが、厨房の二人は決してさぼっているわけでなく、
休むことなく淡々と調理をしていて、さらなる時短は厳しいように見えました。


どこがぶっきらぼうに感じるんだろう、と考えていると、
一緒にいた彼が「店員さんがすみません、とか申し訳なさそうな感じじゃないね」と気づきました。
電車の遅延でもなんでも、大人は時に自分の責任ではないのに
「すみません、申し訳ございません」と謝罪の言葉を並べがちですが、
青年にはそれがなかったのです。
私は確かに、と納得しました。同時にそれが正しい気がするな、と思いました。
ですが飲食で働いた経験がないとか、厨房の様子が見えない人からは誤解されてしまうかもしれません。
案の定、グーグルで口コミを調べてみると料理の味については好意的な口コミが多いのに対し、
「若い店員の態度が悪い」だの接客に関する否定的な口コミが多くありました。
私は青年の正直な態度が人間らしくて憎めなくて、むしろ好感を持ちました。
ホスピタリティ溢れる接客ではありませんが、駅ビルの飲食店ではそれで十分だと思いました。

少し待って私たちの料理も来て、初めてのとろとろ卵のオムライスをおいしく食べました。
帰り際、彼が「あの青年、少し弟くんに似ていたね」と言いました。
見た目ではなく、ちょっとガラついた声のトーンやぶっきらぼうな物言いが
似ていると感じたようです。
私は特に似ていると思っていませんでしたが、そういう部分でも無意識に
青年に親しみやすさを感じていたのかもしれないです。